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特集:サーミ

2012-04-24

序章:サーミについて

IMG_7462.jpgサーミとは、Sápmiと呼ばれるスカンジナビア半島北部からロシアのコラ半島にかけての地域に居住している民族です。Sápmiは、サーミ語で「サーミ人の土地」を意味します。つまりサーミの人々は、アメリカ大陸のネイティブアメリカンやオーストラリアのアボリジニのように、このスカンジナビア半島北部における先住民族ということになります。

サーミは言語、民族衣装、民芸品、音楽、文化に至るまでスカンジナビアに住む他の人々とは異なる独自の文化をもっています。
昔はコータ(kåta)と呼ばれるテントのような移動式住居に住み、トナカイのえさを求めて夏には海岸沿い、冬には内陸部へと、トナカイと移動をともにする遊牧生活を行っていました。しかし現在では時代の流れや環境の変化とともにトナカイの飼育を続けているサーミはいるものの、そのトナカイを追って遊牧生活を続けている人々はほとんどいないと言われています。

サーミの移動式住居コータには、数種類のタイプがあります。最も一般的なものは、ネイティブアメリカンのテント『ティピー』にそっくりな形状で、骨組みとなる柱を三角錐状に組み立てたものにトナカイの皮を被せただけの単純構造。天井には焚き火の煙を逃がすための孔がぽっかりとあいています。
サーミが住む地域Sápmiは一年のうちのほとんどが雪に覆われており、寒い時期には氷点下30℃や40℃になることもしばしば。そんな地域で、テントのような住居での遊牧生活は決して楽なものではなかったはずです。

そしてサーミといえば、コルト(kolt)と呼ばれる華やかな民族衣装。それぞれの地域によって配色やデザインが異なることから、コルトを見ればどこの出身なのかがわかるようになっていると言われています。青や茶を基調としたフェルトに、赤、黄、緑などのふちどりがされた色鮮やかなコルト姿のサーミ。その姿は真っ白な雪の世界では、はっと目が覚めるような美しさです。





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もともとサーミが住んでいたSápmiには国境はありませんでした。しかし現在ではロシア、ノルウェー、フィンランドそしてスウェーデンの4カ国に分けられており、サーミの人々もそれぞれの国で生活しています。

その他、錫やトナカイの皮や角を使ったサーミの手工芸は、現在ではサーミの人々にとって主な産業のひとつとなっています。

IMG_7599.jpgトナカイの皮と錫で作られた伝統的なブレスレット


サーミの歴史

sami03.jpegトナカイとソリをひくサーミ石器時代の紀元前9000年頃には既にSápmiに人が住み、野生のトナカイや鮭を狩っていたと考えられる遺跡があります。また、紀元98年にはローマの歴史家タキトゥスが現在のフィンランドに居住するフェンニ(Fenni)と呼ばれる北部民族について『彼らは耕作などすることなく自然から得られる物を採取、狩猟し、地面に寝床を作り革製の衣服を着ている。」と記述しています。古くからサーミは、北部に住む他の民族と交流を持ち貿易などを行なっていたとされています。

スウェーデンは1523年に即位したグスタフ・ヴァーサ王や彼の末息子カール9世の時代の頃よりサーミをスウェーデン国家の支配下に置こうとしました。その後もサーミの人々は、スウェーデンのラップランド地方に発見された銀鉱山開発のために強制労働を余儀なくされ、スウェーデン人やノルウェー人などの入植者に土地を奪われたり、またロシア、ノルウェー、デンマークの3カ国がサーミの居住地の所有権を主張したためにこれら3カ国対して納税の義務を負わされるなど、北欧、ロシアの国々に長い間、翻弄され続けてきました。その上、彼らが古来から信仰してきた自然界全てのものに魂が宿るとする精霊信仰と祖先崇拝に基づく独自の宗教を弾圧し、キリスト教の布教を行なうことでも彼らをスウェーデン国家の支配下に置こうとしたのです。

sami04.jpeg1920年代のサーミの子供たち20世紀になってもその差別と弾圧は続き、ネイティブアメリカンやアボリジニがそうであったようにサーミもまた下等な人種、民族として扱われたのです。福祉国家として弱者に優しいというイメージの強いスウェーデン。しかし1935年にいわゆる「断種法」が制定され、精神疾患や知的障害を持つ人々、反社会的な生活様式を持つ人々などに強制的に不妊手術を受けさせることが出来るようになりました。サーミの人々も遊牧民であることが「反社会的生活様式」とみなされ、この法律の下、1970年中頃までこの断種政策の犠牲となったのです。

長年にわたる差別と弾圧の歴史と、世の中の近代化の流れの中でサーミ人自身がその伝統や文化を否定的に捉えることもありました。しかし1977年になりスウェーデン政府はサーミをスウェーデンの先住民族であることを公式に認め、1986年にはサーミの旗も決定されるなど、サーミとしてのアイデンティティを徐々に確立していくようになりました。
そしてスウェーデンでは1993年にサーミ議会が導入され、ついにサーミの代表が国会入りを果たしました。現在、サーミの人口は約7万人、その内の2万人がスウェーデンに住んでいます。ストックホルムなどの都市部に住むサーミも増えているそうですが、21世紀の今日でも、多くの人がトナカイと共に暮らし、手工芸や伝統芸能など先祖から受け継いだ文化を守りサーミとして誇りを持って生きているのです。

flagga.jpegサーミの旗次回からいよいよ本編が始まります。ヨックモックで毎年開催されているサーミのウィンターマーケットのレポートやサーミのコルトなどをはじめとする文化、またサーミの民芸品についてお伝えしていきます。お楽しみに!

第一章 サーミの手工芸とヨックモック・ウィンターマーケット




参考:Nordiska museet, Kulturarv, Samer ett ursprungfolk i Sverige